不透明な価格
その価格の根拠は?
普通、物には「価格の目安」があるかと思います。昨今価格の高騰が激しいビスポークスーツの世界でも、希少な材料を使わなければ、スーツで100万円まで、靴でも150万円ぐらいまでではないでしょうか。一回の食事も、希少な食材と高価なワインさえ頼まなければ、二人で10万円前後で収まるのではないでしょうか。
昔と比べるとずいぶんと高いわけですが、それでも一部のモーダ系の商品を除けば、4万円のスーツとその5倍の20万円のスーツとそのまた5倍の100万円のスーツを、専門家でなくとも服好きなら、タグを外しても見分けられると思います。食事も食べ歩きが趣味の人ならそうだと思うのです。
ですが絵は20万円の作品と100万円の作品、あるいは500万円の作品を、作者や扱い業者を伏せて見分けられる人がどれだけいるでしょうか。店主はこれまで絵画を購入する際、この作品が何故この価格なのかを、素朴な疑問として聞いてきました。人気がある、芸大卒、どこどこで個展を開いた、とかいう話はよく聞きましたが。納得のいく説明を得られたことは稀でしたし、「よく聞いてくれました」と、1時間も2時間も話が止まらない人もほとんどいませんでした。(靴や洋服、あるいは料理の世界にはかなりいらっしゃるかと思います。)専門家のはずの売り手サイドでそんな感じでした。
でも、それはそうなんだと思います。ハイパーインフレ下でなければ、今まで10万円のスーツが200万円になることはまずないですし、シェフのお任せ3万円コースが数年で50万円になることもないかと思います。ですが絵画の場合は人気が出れば、数年で何十倍の値段が付くわけです。
ですがその作品自体は数年前と何も変わらないわけですから絶対的な価値は変わっていません。変わるのは相対的な価値ということになります。相対的な価値を説明するには、結局、人気や流行りということになり、難しいこと言うな、という論法だと思いますが、ある程度の説明ができないと持続可能ではないと思うわけです。
実際、流行りというものは厄介で、いい時はいいですが、ブームが去ると厳しいものがあります。そこに経済状況の悪化が加われば最悪です。「社会の中の美術」という単行本の中に、美術品の1932‐34年の2年間の下落率とその後1941年までの回復率の表があり、12人の画家が載せられています。当時超有名であったであろう12人ですが、自分が知っているのは4人です。また下落前の水準に戻っている画家は皆無で、12人の平均下落率は76%、平均回復率は52%。ほぼ戻っているように見えますが、100が76%下落して24、そこから52%回復しても36.5ですから、回復込みで約3分の1の水準になってしまっているわけです。
また調査の起点は32年ですが世界大恐慌は1929年で、ちなみに29年から(この調査が始まる)32年までにアメリカ株は約5分の1に下落しています。(乱暴ですが)仮にこの調査の起点が29年で、株式と絵が連動したとして、100が回復込みで7、8という感じです。バブッた絵ほど怖いものはありません。
「別に儲けるために買ってるんじゃないんだよ、好きで買ってるんだよ。」そういう人もいらっしゃるかと思います。そういう人へのメッセージではありません。当店、買い手の人の満足感に水を差すつもりは毛頭ありませんし、外野がとやかく言う問題ではありません。お正月恒例のマグロの初セリのように高値落札で業界全体が活気づき、盛り上がることは非常にいいことと思います。ただ当店といたしましては、これまで絵に興味があったものの、不透明感満載でなかなか踏み込めなかったお客様に、お気軽にお楽しみいただけるよう、流行とかのあやふやな要因は排除して、透明性を高く、敷居を低く、お手軽にご提供し、営業しています。